秋田旅行レポ②

 旅先には決まって小説を持っていくことにしている。だからといって目を通すというわけではないんだけれど、かつて一度だけ訪れたアメリカで携帯が触れなかったものだから、持ち合わせていた上遠野浩平の小説に余暇をつぶしてもらったのをよく覚えている。なお、ブギーポップではない。読んだこともない。ウエダハジメがカバーイラストを手掛ける講談社辺りのノベルスだったが、あまりにもつまらなすぎて、内容をほとんど忘れてしまった。以来上遠野浩平は敬遠している。

 

 さて、今回持ってきたのは早坂吝の「〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件」。またぞろ講談社。井上真偽辺りから時たまミステリーにも目を通すようになったので、その周辺の一冊として手に取ったのを覚えている。ミステリーは元来、読むにあたって読者自らが推理する積極的な姿勢を求められるが、自分はこのセオリーがどうにも肌に馴染まず、ただ作者から空想を提示され続けるあの怠惰な時間が好きだ。解釈の余地を残さず、二次創作による不純物の介在をよしとせず、作者の言葉それのみでみちみちと詰まった作品にこそ興奮する。(ただしこの傾向はストーリーテリングにおいてより強く意識され、昨今のキャラ消費的文脈の二次創作・イラスト文化にはそこまで頓着がなく、十分に楽しんでいる。痛スリとかバリバリ使ってたので……)

 

 その点で言えば、「うみねこのなく頃に」は本当に気持ちのいい空想体験だった。作品自らがタイムリープ構造によるストーリーテリングの再演を幾度となく重ね、その上でメタフィクション構造による多角的な解釈の提示を絶えず読者に叩き付ける様は、自分の狭量なフィクション観などものともしない確固たる強度を持っていた。あの作品に限っては、二次創作に寛容になれる。その読者の想像行為すらも巻き込んだ物語構造が、埒外の解釈すらも内包してしまえるほど強靭だからだ。

 

 

 

 

 話が大幅に逸れたので戻しますが、そして口調も戻しますが、とにかく旅先では本を開いていません。暇な時間はずっとTBSラジオクラウドで「問わず語りの神田伯山」を聴いていました。未だにシゲフジの笑い声に慣れません。そうして飛行機に乗っている道中、暇を潰していると、ものの一時間ほどで秋田に到着しました。これが国内旅行のいいところ。近いね、苦じゃないね。前述のアメリカ旅行の際は、移動時間があまりにも暇すぎて機内搭載のテトリスをずっとやり込んでいました。どうやら機内でランキングができているらしく、顔も知らない乗客と競り合っていたのを覚えています。

 

 さて、秋田です。前に書いたかは覚えていませんが、実は通算二度目です。前回は諸事情でまともに観光できなかったので、そのリベンジも兼ねています。目的は様々ですが、取り分け日本酒の飲み比べ。そして現地グルメの食べ比べ。食なくして旅の意味なんてありませんからね。レジャー目的で観光する奴の気が知れない。大学に一人いたんですよ。折角新潟に行ったのに、現地のTCG大会に参加するだけでロクな観光もしてこなかった奴が。その話を聞いただけで自分はそいつの感性の乏しさに絶望して、疎遠になりました。旅を楽しめない奴とは仲良くなれない。

 

 それはさておいて、とにかく色々食べ歩きました。とはいえ初日はそれほど出歩いていません。なにせ時節柄、飛行機も欠便が多いもので、こうして秋田に来れているのも結構な偶然の産物であったりします。JALの国内便はほとんど欠航の憂き目に遭っており、残された便といえばいくつかの田舎くらいのものですから。こうして秋田に来れたのも、幸運なことです。そんな事情があって、当初予約していた朝一の便では来れませんでした。秋田には昼過ぎに到着し、その上で空港から秋田駅へのリムジンバスを経由して、都心に到着したのは大体16時過ぎのことです。

 

 ひとまずホテルをとって、初日は近場のtopicoで何か済ませようという話になったので、客入りの多い寿司屋「秋田港」に行きました。値段もリーズナブルでおいしく、日本酒も数多く取り揃えていたので好感触。

 

 中でも事前の情報収集の時点から注目していた新政酒造『No.6』にいきなりお目に掛かれたのは幸運でした。秋田名産曲げわっぱの可愛らしい酒器で出てきたこのお酒、日本酒専門のレビューサイト「SAKETIME」で全国6位を飾っていたのでチェックリストには入れていたのですが、前評判にたがわぬフルーティな香りと微発泡の心地よさ。日本酒であることを忘れてしまいそうな清涼感ある飲み口にうっとりしました。「SAKETIME」で全国2位にランクインしている『花陽浴(埼玉)』が自分の日本酒嗜好の切っ掛けでもあるので、やはり甘口志向の時流とは馬が合うのだと思います。

 

 

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新政酒造 No.6

 ちなみにですが、甘口以外はてんで飲めません。初めて秋田に訪れた時にいただいた『高清水』は、苦手過ぎて同席していた人に譲ってしまったほどです。しかしその折にも運良く『雪の茅舎』に出会えたので、秋田の日本酒の第一印象はとてもいいものでした。コストパフォーマンスの側面で言えば、茅舎がダントツで気に入っています。お土産に何本か買って帰りましたしね。

 

 2杯目にいただいた『ゆきの美人』も非常に軽妙な飲み口で食中酒として大いに楽しめたんですが、写真を撮り忘れていました。悲しい。

 

 そうして日本酒を大いに楽しめたのはいいのですが、この際口にした甘エビが原因で、以後の旅程は全て海老アレルギーによる蕁麻疹症状に苦しみつつのものになります。

 

 運よく抗ヒスタミン剤を持ち合わせていたので何とか応急処置は叶いましたが、十分な睡眠はとれず、ベッドの上で悶え苦しんだことは忘れません。もう海老とは完全にたもとを分かとうと決意しました。

 

 ひとまず1日目はこれで終わりです。思ったより長くなったので、2日目と3日目はまた分割して書こうと思います。